奥歯が内側にズレているのを抜歯せずに治療した歯列矯正

叢生

奥歯が大きく内側にズレているのを、抜歯せずに治療した歯列矯正についてです。

完全に歯列から内側にはみ出てしまって、舌の動きの邪魔もしている状態です。

奥歯が内側にズレているのを抜歯せずに治療した歯列矯正

内側にズレている下顎の奥歯を抜歯せずに治療した歯列矯正の例を見てみましょう。

下の歯のようす

向かって右側の内側に入っている歯(実際には左下の歯)は、第二小臼歯という前から数えて5番目の歯です。

4番目(第一小臼歯)と6番目(第一大臼歯)の歯と歯の間のスキマがなくて、正しい位置に並んでいません。

5番目の歯は、奥歯の中では上下共に内側に入ってしまう確率が高い歯です。

その理由の多くは、乳歯から永久歯に生え変わる順番から考えることができます。

一般的に、6番目の歯は6歳ごろに、4番目の歯は10歳ごろに生えてきます。

それに対して、5番目の歯は12歳ごろに生えてくることが多く、すでに4番目と6番目の歯が生えています。

例えば、5番目の乳歯(第二乳臼歯)が虫歯などによって早くに抜けてしまっている場合、6番目の歯が手前の方に寄ってきてしまうと、5番目の歯が生えてくる場所を奪ってしまうことになります。

おそらく今回のケースも、永久歯が生えてくる時には、すでに生える場所がなくて、内側に生えざるを得なかったのでしょう。

横から見たようす

横から見ると、6番目の歯が前の方に倒れてしまっているのがよくわかります。

先ほどお伝えしましたが、5番目の乳歯が早く抜けてしまうと、高い確率で6番目の歯は、抜けた部分を補うかのように前傾してきます。

その後に生えてくる5番目の歯は、「使っていない歯」とみなされてしまうことも多く、抜歯されてしまうこともあります。

歯が内側に入っているために、歯ブラシも届きにくくて虫歯になったり、下の動きを邪魔することも多いのは事実です。

しかし、使ってないから「要らない歯」かというと、それは違います。

歯が内側に入ってしまった理由を考えると、6番目から後ろの歯を動かして、5番目の歯の入る場所を作ってあげるのが妥当です。

奥歯が内側にズレているのを抜歯せずに治療した歯列矯正の経過

では、奥歯が内側にズレているのを抜歯せずに治療した歯列矯正の経過を見てみましょう。

ブラケットの装着

今回は、完全に内側に入っている第二小臼歯を抜かずに歯列内に並べるため、積極的な臼歯の遠心移動(奥へ動かす移動方法)を行うことにしました。

そのためには、内側には入っている歯だけを動かそうとしても、正常な位置には動かせません。

下の歯ばかり注目していましたが、上の犬歯もかなり飛び出して、八重歯の状態になっています。

(八重歯になる理由も、永久歯が生える順番が絡んでいますが、ここでは説明を省きます)

左下の部分だけを治すのではなく、全体的な咬み合わせのバランスも治さなければなりませんでした。

そこで、部分的な矯正治療ではなく、全ての歯を対象とする全体的な矯正治療を行いました。

内側に入っている歯や、飛び出ている歯を動かすのは後回しになります。

ブラケットは、それら以外の歯に装着しています。

歯の入る場所を作る

ブラケットをつけて、ワイヤーを装着すると、歯はある程度並んできます。

しかし、内側に入っている歯を引っ張り出すためのスペースを作るには、奥歯を奥に動かさなければなりません。

そのために、下の歯には複雑な形のワイヤー『マルチループワイヤー』を使用しました。

このワイヤーは、積極的に奥歯を動かすために有効です。

同時に顎間ゴムを使いました。

この顎間ゴムというのは、様々な作用があります。

今回の顎間ゴムの使い方は、積極的な臼歯の遠心移動(奥へ動かす移動方法)に特化した使い方です。

顎間ゴムを引っ掛けている部分より後ろに力が働いて、奥歯を後ろへ動かしながら、まっすぐにしていく作用があります。

同時に、6番目と7番目(今回の一番後ろの歯、第二大臼歯)を動かすことによってできたスキマに、内側に入っている5番目の歯が誘導されるようにしています。

顎間ゴムとは違う細いゴムを使って、5番目の外側に引っ張りました。

ブラケットやワイヤー、この細いゴムは、患者さんが外したり交換することができませんが、顎間ゴムは患者さん自身が自分で装着、交換する必要があります。

引っ張ってきた歯にブラケットをつける

奥歯の積極的な後方への移動によって、5番目の歯が引っ張り出せました。

でも、まだ中途半端ですね。。

引っ張ってきた歯にブラケットをつけることが可能になったので、さらにまっすぐ歯を起こしてくるために、ブラケットつけてワイヤーも通しました。

マルチループワイヤーには、歯をねじるような力をかけることができます。

顎間ゴムをかける場所も変更して、さらに奥歯が奥へ、内側の歯は外側へ動くように調整しています。

上の歯も同じように、八重歯になっている歯より後ろの歯をさらに後ろへ動かしたいのです。

しかし、この時点では複雑なワイヤーを使うことが困難だったので、バネ(オープンコイル)で代用しています。

八重歯にもブラケットをつける

内側に入っていた下の歯は、他の歯と並ぶくらい引っ張り出せました。

上の八重歯の部分にも入る場所ができてきたので、ブラケットをつけました。

八重歯の位置がかなり上の方にあるので、ブラケットにワイヤーを通すことができませんが、ワイヤーの力が掛かるように細いゴムを使っています。

顎間ゴムも引き続き使っています。

今回の顎間ゴムの使い方は、下で使っていた時の作用を、上の歯で応用しているものです。

八重歯の入る場所を積極的に作るために、八重歯より後ろの歯をさらに後ろへ動かします。

上の歯に集中して動かすステージへ

下の歯は、ほぼ並んできました。

下の歯は硬いワイヤーに変えて、上の歯を動かすための固定の元として使います。

マルチループワイヤーを上の歯に使っていますが、このワイヤーは歯の高さを変えていくのに便利です。

積極的にワイヤーのループの部分の高さを調整して、八重歯だったところを下の方に引っ張ってきます。

また、今回の調整は、上下の歯の前後的な位置関係を改善するステージでもあります。

上の歯と下の歯の山と谷が合うように、顎間ゴムを使って引き合わせます。

最終的なワイヤーの装着

上下を硬いワイヤーに変えました。

八重歯は、いわゆる『八重歯』の状態ではなくなってきました。

上下の位置関係も、もうすぐきれいに噛み合うところまで来ています。

きちんとした咬み合わせができてくるまで、顎間ゴムの使用は必須です。

奥歯が内側にズレているのを抜歯せずに治療した歯列矯正が完了

矯正装置を全て外しました。

元々内側にズレていた歯は、奥歯が奥に動かせたので、正常な位置にきれいに収まっています。

上の八重歯も同様に、本来あるべき位置に動かすことができました。

保定装置(リテーナー)の着用

矯正装置を外した後は、保定装置(リテーナー)を使用します。

今回のように、大きく歯列からはみ出していた歯を並べた時は、特に保定のステージは大切です。

歯が再び内側に倒れていかないように、歯の形にキッチリ合わせた床(しょう)を作ります。

リテーナーは固定式ではなく、ご自身で取り外すことのできる装置ですが、一年ほどは日中も夜間も使用していただきます。

奥歯が内側にズレているのを抜歯せずに治療した歯列矯正のまとめ

以上、奥歯が内側にズレているのを抜歯せずに治療した歯列矯正の具体的な方法と過程、終了後の結果について、詳しくお伝えしました。

矯正治療には、特に問題のある部分のみを治す『部分矯正』もあります。

しかし、そのような状態になった原因を考えると、全体にアプローチしないと真の問題解決にならないこともあります。

本ケースは、奥歯の倒れ込みが結果的に歯並びや咬み合わせを崩すことにつながっていました。

今回の矯正治療の主目的は、内側に大きくズレてしまった第二小臼歯を抜かずに、本来あるべき位置に戻すことでしたが、全体的な矯正治療を行うメリットが非常に大きかったのではないかと思います。

奥歯が内側にズレているのを抜歯せずに治療した歯列矯正の治療の経過の様子は、YouTubeでもご覧いただけます。

歯列から外れてしまった八重歯と奥歯が、正しく並んでいく様子がよくわかりますよ↓

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