前歯の捻転を治す矯正治療の記録です。
【捻転(ねんてん)】とは、歯のねじれている状態のことです。
前歯の捻転を治す矯正治療
前歯の捻転の状態を正面から見てみましょう。
正面のようす
上の前歯は重なり合っています。
左上の中切歯(一番前の歯)が右上の中切歯に乗っかっているようです。
下の前歯にも叢生(そうせい いわゆる乱杭歯)がありました。
左側のようす
左側から見ると中切歯が飛び出ているのがよくわかります。
下の前歯もねじれて生えていますね。
右側のようす
左側の中切歯は、右の中切歯よりも外側にあるため、歯と歯が隣接するべき部分が丸見えになっています。
下の歯は、左右とも同じような並び方です。
前歯4本が、扇型に開いて見えます。
上の歯のようす
下の方から上の歯全体を全体を見てみると、前歯の重なり方がよくわかります。
左上の歯は、40度くらいねじれています。
歯がねじれているのは、その歯が生えるためのスペースが足りなくて、回転せざるを得ない状態です。
乳歯から永久歯に生え変わるときに、すでにスペース不足で並び切らないこともあります。
下の歯のようす
下の前歯は、左右対称的に扇型になっています。
これも、前歯4本が並び切るスペースが不足している場合に起こります。
奥歯の向きは、全て内向きになっています。
奥歯の内側への傾斜は、前歯の並ぶ場所を狭くしてしまう原因の一つです。
前歯の捻転を治す矯正治療の経過
それでは、前歯の捻転を治す矯正治療の経過を見ていきましょう。
ブラケットの装着
上の歯にブラケットを装着しました。
ブラケットは歯に特殊な接着剤で接着されています。
ブラケットは、基本的に矯正治療中はずっと歯についたままです。
ブラケットの上に乗っているワイヤーを順次交換して、歯を動かしていきます。
ワイヤーはブラケットに小さなゴム(オーリング)で留められています。
オーリングは透明のものを使うことが多いのですが、このように色のついたものもあります。
色がついていると、ワイヤーを留めている状態がよくわかります。
今回は、ワインレッドのオーリングです。
大人っぽい雰囲気ですね。
下の歯にもブラケットを装着しました。
ワイヤーを通すと、歯の並び方も良くわかります。
前歯の部分は、ワイヤーが波を打っていますね。
オーリングは黄色です。
とってもかわいいですね。
マルチループワイヤーの装着
徐々に歯が並んできました。
上の前歯は、すでに重なりもなくなってきました。
しかし、単純に歯を並べるだけだと、歯は全体的に前の方に出てこようとしてしまします。
これは、奥歯の位置が改善されていないために起こります。
奥歯が全体的に前の方に倒れているのを改善しなければ、前歯が引っ込められません。
複雑な形をしているマルチループワイヤーは、前に倒れている奥歯を一斉に起き上がらせる効果があります。
顎間ゴムを使用して、前歯の開いているのを閉じるのと、奥歯に適正な力がかかるように調整しています。
今回のオーリングは、薄紫色です。
可憐なお花のようで、素敵ですね。
マルチループの継続使用によって、奥歯が起き上がり、同時に上下の前歯も閉じてきました。
顎間ゴムも継続的に使用します。
下の前歯は、ワイヤーをオーリングで留めていません。
オーリングの代わりに、結紮線(けっさつせん)という細いワイヤーで留めています。
今回は、オーリングよりも強くワイヤーを結んでおきたいので、結紮線を使用しました。
【結紮】は、主に手術の際の縫合や止血の時に、縫合糸(ほうごうし)などで結ぶことを指していますが、
矯正治療においての【結紮】は、細いワイヤーやオーリングなどで、主線となる太いワイヤーを留めることを指しています。
結紮線の使い方は色々です。
この写真の中でも、他の目的で結紮線を使っている部分があります。
上下共、前歯と前歯の間にバッテン(X)があるのが見えますが、これも結紮線です。
結紮線を使って、歯と歯をつないでいます。
こうすることによって、歯と歯の間にスキマができないようにしているのです。
今回のオーリングは、ミントブルーです。
お口の中に、爽やかな風が吹いているようですね。
マリガンの装着
マルチループワイヤーの効果で、かなり歯が並んできました。
上下の前歯も閉じてきて、扇型をしていた下の前歯もキレイに並んできました。
上の歯には、マルチループワイヤーの上に【マリガン】という太いワイヤーを装着しています。
マリガンは単独で使用されることはなく、他のワイヤーとダブルで使われます。
マリガンは、全体の歯列弓(歯の並んでいるアーチ)を拡大したり、前歯を抑え込む効果があります。
下の歯には、硬くてシンプルなワイヤーを装着しています。
下の歯に入れた硬いワイヤーは、歯を大きく動かすためではなく、むしろ固定しておくために装着しています。
下の歯を固定の元として、上の歯を後ろの方へ引くためです。
このような固定の元のことを【固定源(こていげん)】と呼んでいます。
強固な固定源を作ることで、上の歯はより動きやすくなります。
しかし、上下バラバラになっていたら、固定源は意味を成しません。
顎間ゴムを必ず使って、上の歯列弓を全体的に後方へ引っ張ります。
顎間ゴムは、上の歯列の手前の方から、下の歯列の後ろの方に掛けられています。
このように、顎間ゴムの位置は、動かしたい方向によって適宜変更します。
今回のオーリングは無色透明です。
カラーのオーリングとは全く違う雰囲気ですね。
落ち着いた文学少女といった感じでしょうか。
下の歯に再度マルチループワイヤーを装着
上の歯は、前述の手法によって、キレイに並んできました。
今度は、下の歯に対して同様の原理を応用します。
下の歯を、上の歯のアーチに合うように調整します。
顎間ゴムの方向は、逆向きになります。
上の歯列の後方から、下の歯列の前方に顎間ゴムを掛けて、下の前歯が上の前歯の裏側に噛み込むような力の方向とします。
今回のオーリングは、紫色です。
紫色も大人っぽくて、素敵ですね。
最終的なワイヤー
下の歯も、上の歯と噛み込む位置に動いてきました。
奥歯も、山と谷で噛み合っています。
40度くらい捻転していた前歯も、すっかりキレイに真っ直ぐになりました。
上下共に硬くてシンプルなワイヤーに変えて、歯列と咬み合わせの安定を図ります。
今回のオーリングは、情熱的な赤色です。
矯正治療の最後まで頑張り通した患者さんは、とても立派です。
前歯の捻転を治す矯正治療が完了
全ての矯正装置を外しました。
捻転していた上の前歯、扇型だった下の前歯、共にキレイに並びました。
左右どちらから見ても、同じような見え方になりました。
上下の奥歯の位置関係も、山と谷で噛み合うようになりました。
上下の歯列弓は、キレイな弧を描いて、理想的な形になりました。
内側に倒れていた奥歯も、真っ直ぐに起き上がっています。
奥歯の舌側傾斜(ぜっそくけいしゃ 歯が内側に倒れていること)は、前歯の乱れの原因となっていました。
奥歯の向きが改善され、結果的に前歯がキレに並んだのです。
保定装置(リテーナー)の着用
矯正治療後は、保定装置(リテーナー)を着用します。
リテーナーは、ご自身で取り外しのできる装置です。
キレイに並んだ歯列をキープするために使用します。
前歯の捻転を治す矯正治療 まとめ
以上、前歯の捻転を治す矯正治療の記録でした。
前歯に起きていることは、本当に前歯がいけないのか?
もしくは、奥歯の影響で前歯が乱れているのか?
今回は、奥歯の位置の乱れが、前歯に影響を及ぼしていました。
前歯だけの部分矯正という手法もありますが、今回は根本的な原因の解消、理想的な咬み合わせをと歯並びを目標とし、全体的な矯正治療をしています。
ワイヤーを留めているオーリングもカラフルに、矯正治療に楽しんで取り組まれていらっしゃいました。
ご本人の前向きな姿勢と努力が、良い結果へとつながりました。
前歯の捻転を治す矯正治療の経過の様子は、YouTubeでもご覧いただけます。
前歯が正しく並んでいく様子がよくわかりますよ↓
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