翼状捻転と咬み合わせを治す矯正治療の記録です。
上の前歯が左右対称にねじれて重なっていました。
翼のように見えることから、翼状捻転(よくじょうねんてん)と呼ばれています。
翼状捻転と咬み合わせを治す矯正治療
翼状捻転と咬み合わせと咬み合わせの状態を見ていきましょう。
正面のようす
一番前の歯(中切歯 ちゅうせっし)がハの字になっています。
奥歯の向きは、内側に傾斜していました。
下から見たようす
下から見てみると、歯がハの字になっているだけではなく、中切歯は内側にねじれるように生えていました。
左右対称にねじれて、翼のようになっているのがよくわかります。
翼状捻転と言われる理由です。
上の歯のようす
上の歯のアーチ(歯列弓 しれつきゅう)はキレイな形はしているのですが、奥歯が内側に傾いています。
歯のことではないのですが、上顎のドーム状になっているてっぺん(一番深いところ 天井)には盛り上がっているところがあります。
上顎のドーム状の部分は【口蓋(こうがい)】と呼ばれています。
この口蓋の天井が盛り上がっていることを、【口蓋隆起(こうがいりゅうき)】と呼んでいます。
【口蓋隆起】は、歯茎のすぐ下に骨があります。
歯の噛む力が強く、左右の歯から正中(せいちゅう 真ん中)方向へ、強いうちからがかかると、口蓋の一番深い部分(天井)に力が集中します。
その集中した力を受け止めるために、口蓋の骨が発達して、【口蓋隆起】となるのです。
中学生の頃だったか、社会の時間に出てきた「大陸と大陸がぶつかって高い山脈ができる成り立ち」と似ていますね。
下の歯のようす
下の歯列弓も、一見キレイに見えますが、奥歯は内側に傾いています。
基本的な上下の歯の関係は、上が下の歯列を覆います。
上のアーチが内側を向いて狭くなっている場合、往々にして下のアーチも狭くなります。
上の歯の並びの影響が、下の歯に及んでいる一例です。
下顎をズラして噛んだ状態について
ここからは、咬み合わせについて見ていきます。
こちらの写真は、一枚目の写真と同じものです。
下顎をズラさず、そのまま上下の歯を噛んだ状態です。
この写真を基準に、以下の写真を見てみましょう。
こちらは、下顎を前にズラして、前歯同士で噛んで頂こうとした状態です。
しかし、前歯同士は当たっていません。
奥歯同士が当たっています。
顎の動きと合わせて考えた時の理想的な咬み合わせだと、下顎を前にズラして前歯同士で噛むと、奥歯同士は噛めない状態になります。
その理想的な状態とは、全く逆の噛み方になってしまっています。
こちらは下顎を右(ご本人にとって右方向 写真では左方向)にズラして噛んでいる状態です。
このように下顎を右へずらした場合、上下の歯が接触するのは右側だけとなるのが理想的ですが、左の奥歯も上下の歯が当たってしまっています。
また、右側の上下の歯の接触状態も、全ての奥歯が当たっています。
しかし本来なら、犬歯(前から数えて3番目)の歯が接触して、それより後ろの歯が全て接触しないように離れているのが理想的です。
こちらは先ほどとは逆、下顎を左(ご本人にとって左方向 写真では右方向)にズラして噛んでいる状態です。
反対方向に下顎をズラしても、奥歯の接触状態はよく似ています。
奥歯がどの方向にアゴをズラしても接触してしまう咬み合わせでは、奥歯への負担が大きくなってしまいます。
顎の関節の動きと、歯並びや咬み合わせは、非常に深い関係があります。
顎の動きに合った咬み合わせになっていないと、歯そのものの寿命を短くしてしまうことにもなりかねません。
一見キレイに見える咬み合わせでも、実は機能的な問題が隠れている場合があります。
先ほど述べた【口蓋隆起】が見られる場合などは、その口蓋隆起がなぜできているかの理由を探ることも大切です。
翼状捻転と咬み合わせを治す矯正治療の経過
それでは、実際の治療経過について見ていきましょう。
ブラケットとクワッドヘリックス(Quad Helix)の装着
上下の歯にブラケットを装着しました。
ブラケットは歯に接着され、歯を動かすためのワイヤーが小さなゴム(オーリング)によって固定されます。
奥歯が内側を向いていること自体が、前歯の並ぶ場所を狭くしていますので、歯列弓は解放されるように歯を動かしていく必要があります。
歯列弓の形を改善するため、クワッドヘリックス(Quad Helix)を併用しています。
ワイヤーの交換
歯の動きに合わせて、ワイヤーを交換していきます。
最初に使ってるワイヤーより硬いワイヤーを使って、歯をさらに動かします。
歯が動いて、歯列弓にゆとりが出てきたので、下の前歯と前歯の間には隙間ができていますね。
奥歯が内側に傾斜していたのを真っ直ぐにしていきます。
奥歯を立て直しながら、前歯にできた隙間も閉じながら歯並びも整えていきます。
マルチループの装着
上下の歯並びが整ってきましたので、咬み合わせを理想的に導く段階へと移ります。
複雑な形をしているマルチループワイヤーを使用しました。
マルチループワイヤーは、倒れている歯を整直(せいちょく 真っ直ぐに立て直すこと)させるのに効果的です。
矯正治療前は、どのように下顎を動かしても、奥歯同士が当たってしまう咬み合わせでした。
細かくみると、下顎を左右にずらしたときに、
① 上下の奥歯が内側に傾斜しているため、上下の歯の外側の山と山がぶつかってしまう。
② 下の歯の噛む面(咬合平面)が、奥へ行くほど尻上がりに立ち上がっているため、上の歯と当たりっぱなしになってしまう。
という状態でした。
これらの状態は、原因となっている奥歯の向きを改善しないと治せません。
前歯の歯並びだけを見れば、だいぶキレイになっているので、もうすぐ終わりでいいのでは?と考えてしまいがちですが、ここからが咬み合わせを治す矯正治療の大切なステージです。
ブラケットの付け替え
部分的に、歯に装着しているブラケットの位置を変えています。
ワイヤーの調整でも歯を動かすことができますが、ブラケットの位置を変えていくことによっても歯を動かしやすくすることができます。
今回は、咬み合わせの変化に合わせて、ブラケットの位置を変えています。
ワイヤーは硬いタイプを使っています。
歯並びはかなりキレイになりましたが、咬み合わせの調整を続けます。
咬み合わせの調整時は、歯の動きは少なくなりますので、一見すると大きな変化がわかりません。
こちらは、下顎を前にズラして、前歯同士で噛もうとして頂いた状態です。
矯正治療前は、同じような下顎の動きをしても、前歯同士は当たりませんでした。
矯正治療中ですが、下顎を前にズラすと、前歯同士が当たるようになって奥歯同士は強く当たらなくなってきています。
奥歯の位置が、顎の動きに合わせて、良い方向へ変化した結果です。
最終的なワイヤー
こちらは、矯正治療が終了する直前の写真です。
歯並びと咬み合わせが安定するように、硬いワイヤーを使って調整します。
翼状捻転と咬み合わせを治す矯正治療が終了
全ての矯正装置を外しました。
ハの字に開いていた前歯は真っ直ぐになりました。
奥歯の上下の位置関係も、真っ直ぐ同士で噛む方向に並んでいます。
下顎を前にズラした状態です。
前歯の先端同士は当たり、奥歯同士が離れています。
下顎を右(ご本人にとって右方向 写真では左方向)にズラして噛んでいる状態です。
犬歯での接触時に、上下の奥歯同士は離れるようになりました。
下顎を左(ご本人にとって左方向 写真では右方向)にズラして噛んでいる状態です。
左右どちらの方向に下顎をズラしても、奥歯の接触はありません。
奥歯は、まっすぐに噛んできたときは当たり、下顎を左右に動かしたときには当たらないようになりました。
歯はそれぞれ本来の役割があるのですが、前歯は奥歯を、奥歯は前歯を守るようにできています。
このように、お互いを守り合う咬み合わせを【ミューチュアリー・プロテクテッド・オクルージョン(Mutualy Protected Occlusion)】と呼んでいます。
下から見た状態です。
翼状捻転はキレイになりました。
翼状捻転も元はと言えば、奥歯の位置に原因があったのです。
上下の歯列弓は、キレイなU字型を描いて理想的になりました。
口蓋隆起は、そのまま残っています。
歯列矯正などの咬み合わせ治療をしても、ほとんどの場合、口蓋隆起は変化はありませんが、さらに大きく骨が隆起することは避けられると思います。
保定装置(リテーナー)の着用
矯正治療後は、保定装置(リテーナー)を着用します。
今回のように、歯が内側に傾斜していた場合は、歯の裏側から支えられるようなタイプのリテーナーが望ましいです。
写真では見えないのですが、歯の裏側には、歯を支えるためのプレートが組み込まれたタイプのリテーナーを使用しています。
翼状捻転と咬み合わせを治す矯正治療 まとめ
以上、翼状捻転と咬み合わせを治す矯正治療の記録でした。
装置は、歯列の拡大のためのQuadHelixと、固定式装置(スタンダードエッジワイズ法)を使用しています。
矯正治療後は、翼状捻転していた前歯の面影もなく、美しい歯並びになりました。
しかし、矯正治療は単に歯並びがキレイになるだけでは、真のゴールとはなりません。
機能的な改善を含めて目的を達成できる矯正治療が必要です。
翼状捻転と咬み合わせを治す矯正治療正の治療の経過の様子は、YouTubeでもご覧いただけます。
翼状捻転が正しく並んでいく様子がよくわかりますよ↓
case0067