中切歯(真ん中の歯)が重度の叢生(そうせい 乱杭歯のこと)の歯列矯正の記録です。
中切歯が重度の叢生の歯列矯正
中切歯が重度の叢生になっている状態を正面から見てみましょう。
正面のようす
右上の中切歯(ご本人の右側、写真では向かって左側)は、かなり外側に飛び出しています。
このような左右差のある場合は、乳歯が抜けて永久歯が生えてくるタイミングが違っていたことが多いです。
おそらく、右側の中切歯は、左側の中切歯より遅れて生えてきたものと思われます。
下の歯もかなり混み合った感じです。
下の犬歯(前から数えて3番目)は、内側に傾斜しています。
下から見たようす
下から覗き込むように見てみると、左上の中切歯が外側にあるのがよくわかります。
両隣の歯が接近していて、左上の中切歯が入る場所がありません。
写真には写っていませんが、矯正治療を行うにあたって、親知らずの抜歯を行いました。
親知らずは、前から数えて8番目、一番奥の歯です。
顎の奥行きがない場合には、正常に生えてこないことが多い歯で、将来的に問題となることがあります。
中切歯が重度の叢生の歯列矯正の経過
中切歯が重度の叢生の歯列矯正の経過を見ていきましょう。
ブラケットの装着
上下共に、歯にブラケットを装着しました。
上の前歯は、なんとか隠れている歯にもブラケットを装着できました。
下の前歯は、隠れている側切歯(前から数えて2番目)には、ブラケットを装着する場所がありませんでした。
このような場合は、周りの歯が動いてきてから、改めてブラケットを装着します。
ワイヤーの交換
こちらは1ヶ月後です。
少しづつ歯が動いています。
矯正治療の初期の段階では、順番に硬めのワイヤーに交換していくことが多いです。
このような調整を繰り返していきます。
マルチループワイヤーの装着
上の歯は、だいぶ並んできました。
かなり重なりの強かった前歯ですが、全体を解放するように調整していくと、比較的早期に並んできます。
下の隠れていた側切歯も徐々に見えるようになってきました。
しかし、まだ、内側に隠れてしまっていて、ブラケットを装着するまでには至っていません。
上下共に複雑なワイヤー(マルチループワイヤー)を使用しました。
マルチループワイヤーは、倒れている歯を真っ直ぐに起こし上げることができます。
さらに下の歯には、マルチループワイヤーの中でも、コンビネーションループを組み込んだワイヤーを装着しています。
コンビネーションループは、ちょうど犬歯の部分に組み込まれています。
コンビネーションループによる作用は、左右の検視と犬歯の間を拡げるように働きます。
この段階では、上下をバラバラに並べていくときの弊害として、上下の前歯同士が開いてくる現象(開咬 かいこう)が起きています。
シンプルなワイヤーからマルチループワイヤーに変えた段階で、顎間ゴムを使えるようになり、開咬になる傾向を抑えながら治療が進められるようになります。
マリガンの装着
上のマルチループに被せるように、太いワイヤーを使い始めます。
この二重になっている太いワイヤーの方を、【マリガン】と呼んでいます。
このワイヤーには、歯列弓(歯の並んでいるアーチ)を拡げる作用と、下の歯を動かすときの固定源として働く作用があります。
理想的な歯列は、上の歯が下の歯を全体的に覆うものですが、上の歯列弓が狭いと下の歯は並び切ってくれません。
今回は、これ以上の歯列弓の拡大は必要ないくらいなので、主に下の歯を積極的に動かすための固定源としての役割の方が強いでしょう。
例えば、左右の2本の歯があって、左の歯が、右に動いてほしいと仮定します。
単純にこの2本の歯を引っ張り合うと、両方の歯が動いて寄ってきてしまいます。
そのような現象を防ぐために、右の歯を固定して、左の歯が右に動いてくれるようにします。
このように、固定の元となる部分を【固定源】と呼んでいます。
今回は、上の歯全体を、下の歯を動かすための固定源にしよう、といったところです。
下の左右の側切歯は、外側に引っ張り出すためのパワーチェーンも使い始めました。
下の側切歯へのブラケットの装着
下の前歯にもゆとりができて、ようやく側切歯が出てきました。
ここまでくると、ブラケットも楽に装着できます。
側切歯の向きを改善するために、一旦、柔らかいワイヤーを装着します。
矯正治療の初期段階で行うことと同じように、です。
再度マルチループの装着
ある程度、下の前歯が並んできたので、上下共にマルチループワイヤーを再度使いました。
並んできた歯列は、上下で合うようにしなければなりません。
いわゆる【咬み合わせ】を整える段階です。
顎間ゴムを併用して、上下の歯列を合わせていきます。
再度マリガンの装着
マリガンも再度使用し始めました。
上の歯列弓が、確実に下の歯列弓を覆うように調整します。
顎間ゴムの効果も現れて、上下の前歯同士も近づいてきています。
歯並び自体は、かなり改善してきましたが、咬み合わせを構築する大切なステージです。
最終的なワイヤー
上下の歯が噛み合うようになり、咬み合わせが出来上がってきました。
この状態を安定させるために、シンプルで硬いワイヤーに交換しています。
同時に、歯とはの間の細かいスキマを閉じるためのパワーチェーンを使っています。
隠れていた下の側切歯を引っ張る時に使っていたパワーチェーンと同じものです。
パワーチェーンは、色々な使い方のできる便利なアイテムですね。
中切歯が重度の叢生の歯列矯正の完了
全ての矯正装置を外しました。
下から見ても、重度の叢生を呈していた左右の中切歯はきれいに並んでいるのがわかります。
保定装置(リテーナー)の着用
矯正治療後は、保定装置(リテーナー)を着用します。
歯が動いてきた後は、まだまだ不安定な状態です。
リテーナーを使って、歯列の更なる安定を図ります。
中切歯が重度の叢生の歯列矯正 まとめ
前歯は上下共に複雑に重なっていました。
生えてこれなかった親知らずのみ抜歯しています。
前歯の並ぶスペースがなかったのは、歯列の狭さや、奥歯が倒れてきたことに起因していました。
いかに前歯の並ぶ場所を作るかがカギでした。
中切歯が重度の叢生の歯列矯正の治療の経過の様子は、YouTubeでもご覧いただけます。
前歯が正しく並んでいく様子がよくわかりますよ↓
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