下の前歯がほとんど見えない過蓋咬合の矯正治療

過蓋咬合

上下の歯を噛み合わせると、下の歯はほとんど見えない状態でした。

咬み合わせが深いことを『過蓋咬合(かがいこうごう)』と呼んでいます。

下の前歯がほとんど見えない過蓋咬合の矯正治療

正面のようす

下の前歯は、上の前歯に隠れてほとんど見えません。

右上(ご本人の右側、写真では向かって左側)の中切歯はメタルボンドが入っていました。

メタルボンドとは、中身は金属で外側をセラミック(陶器)で覆われているタイプの歯のかぶせものです。

左上の歯は、以前に先端が欠けてしまい、レジン(樹脂)で修復されていました。

上の歯のようす

歯列弓(しれつきゅう 歯の並んでいるアーチのこと)は、やや台形のような形です。

上顎のドーム状の部分は【口蓋(こうがい)】と呼ばれています。

この口蓋の天井が盛り上がっていることを、【口蓋隆起(こうがいりゅうき)】と呼んでいます。

【口蓋隆起】は、歯茎のすぐ下に骨があります。

歯の噛む力が強く、左右の歯から正中(せいちゅう 真ん中)方向へ、強いうちからがかかると、口蓋の一番深い部分(天井)に力が集中します。

その集中した力を受け止めるために、口蓋の骨が発達して、【口蓋隆起】となります。

口蓋隆起は病気ではなく、治療の必要はありません。

下の歯のようす

下の歯は、左下の犬歯(前から数えて3番目)が歯列からはみ出ています。

中切歯(一番前の歯)2本は、上の前歯と同じくメタルボンドが入っていました。

本来の中切歯の幅より短いかぶせものが作られていますが、元の歯並びが重なっていたのをキレイに並べるために細く作ったものと思われます。

奥歯は全体的に内側に傾斜していました。

左下の一番奥には、親知らず(前から数えて8番目)がありました。

親知らずは、矯正治療に先立って抜歯しています。

横から見たようす

上の歯は、奥歯に対して前歯の方が下の方に垂れ下がっているように見えます。

左側から見ても同じように、下の前歯は巻き込まれるように覆われています。

下の前歯がほとんど見えない過蓋咬合の矯正治療の経過

それでは、過蓋咬合の矯正治療の経過を見ていきましょう。

クワッドヘリックス(Quad Helix)の装着

矯正治療のまず一番最初に、クワッドヘリックス(Quad Helix)を装着しました。

クワッドヘリックス(Quad Helix)の最も一般的な使い方は、歯列弓の拡大です。

歯列弓の拡大とは、歯の並んでいるアーチが狭い場合に、アーチ全体を拡げることです。

今回は、歯列弓自体が極端に狭いわけではありませんので、歯列弓の拡大は少し行えれば問題ありません。

クワッドヘリックス(Quad Helix)を使用した理由として、歯列弓の拡大以外の目的があります。

のちに行う、下の奥歯が内側に倒れているのを改善するために、強力な固定源として上顎を使いたいからです。

口蓋隆起のある場合、往々にして咬合力(噛む力)が非常に強いことがあります。

下の奥歯を整直(せいちょく まっすぐにすること)する際に、強い咬合力に負けてしまわないように動かす目的も併せて、クワッドヘリックス(Quad Helix)を使用しました。

ブラケットの装着

上下の歯にブラケットを装着しました。

歯の表側に装着するタイプのブラケットは、ブラケットと歯が当たらないように装着します。

現状の咬み合わせでは、下の歯の根本ぎりぎりにつけなければなりませんでした。

根本ぎりぎりにブラケットをつけなくても済むように、奥歯の高さを人為的に上げる場合もあります。

その難点として、食べ物が非常に噛みにくくなることが挙げられます。

このような処置はやむを得ない場合もありますが、今回は行なっておりません。

顎間ゴムの使用

上の歯の並びにゆとりができてきたので、歯と歯の間にスキマができてきました。

上の歯のワイヤーは硬いタイプに変えています。

下の歯が内側に倒れているのを改善するために、顎間ゴムを使用しています。

顎間ゴムは、上の奥歯の表側と、下の奥歯の裏側に掛かっています。

写真では見えませんが、下の歯の裏側には顎間ゴムを引っ掛けるためのリンガルボタンを装着しています。

下の歯の裏側から、斜め上に力がかかるように顎間ゴムが使われています。

そのような力がかかると、内側に倒れている奥歯が外側に引っ張られて起き上がってきます。

しかし、上の歯は顎間ゴムによって内側に力がかかってしまいます。

このように、かかってほしくない力の影響を少なくするために、クワッドヘリックス(Quad Helix)が役立っています。

クワッドヘリックス(Quad Helix)の裏側のワイヤーは、上の歯が内側に入ってこようとするのを抑えています。

マルチループワイヤーの使用

顎間ゴムの効果により、内側に倒れていた歯が整直してきました。

歯が斜めに倒れていたのが、まっすぐになると、縦方向の実質的な距離が長くなり、咬み合わせが挙上されます。

それによって、上下の前歯の間には空間ができてきます。

ここから、上の前歯のアーチに合わせるように、押し込められていた下の前歯を解放していきます。

前歯の間にゆとりを作っていくために、オープンコイル(バネ)を使用しました。

オープンコイルは、圧縮して装着することにより、戻ろうとする力で歯と歯の間が拡がります。

小臼歯の咬合の確立

下の前歯の間にゆとりができて、犬歯から犬歯の間の距離が長くなりました。

下の中切歯はメタルボンドが入っていますが、その幅は本来の中切歯より短いものでした。

後に、本来の中切歯の幅のかぶせものを作りますので、スキマは開けたままにします。

上の両側の側切歯と犬歯の間も同様にスキマは開けたままです。

左上の側切歯は天然歯ですが、のちにレジンにて形を修正します。

咬み合わせを安定させるためには、小臼歯(前から数えて4,5番目)がとても大切です。

特に、上下の第一小臼歯(4番目)は、咬み合わせの位置を決める大切な役割があります。

小臼歯部での咬み合わせを積極的に確立するため、第一大臼歯に嵩上げ(かさあげ)をしています。

この嵩上げのことを、バイトアップと呼んでいます。

青いレジンを使っているのでわかりやすいのですが、第一大臼歯の内側の山を覆うように接着しています。

これにより、上下の小臼歯の間にはわずかな空間ができ、その空間を埋めるように小臼歯同士を求め合わせることが可能となります。

このようなレジンによるバイトアップは、前述のように噛みにくくなるので、やらなくて済むならあまりやりたくないことです。

しかし、今回は咬合力の強さに負けてしまいそうでしたので、第一大臼歯に嵩上げをして噛む力が小臼歯にかからないようにしながら咬み合わせの調整をしました。

最終的な調整

小臼歯部での咬み合わせができてきました。

下の歯は、咬合力に負けて内側に倒れるようなこともなく、整直したまま上の歯と噛み合うようになっています。

バイトアップのために使用していた青いレジンは、必要なくなりましたので外してあります。

上の中切歯は左右のサイズが合うように、左上の欠けた歯に施してあったレジンを修復しています。

上の側切歯の手前にあったスキマは、虫歯の治療用のコンポジットレジンをダイレクトに接着して形を修復しています。

この方法は、歯を削らずにできるのが利点です。

下の中切歯は、今まで入っていたメタルボンドを外し、レジンで作った仮の歯を入れました。

歯の間にできたスキマを利用して、歯の幅を理想的な状態にした仮のかぶせものです。

歯の形の修正など、細かい調整を進めて、咬み合わせが安定したところで矯正治療は終了です。

下の前歯がほとんど見えない過蓋咬合の矯正治療が完了

咬み合わせの安定を見届けて、矯正装置を全て外しました。

ほとんど見なかった下の前歯も見えるようになりました。

上下のアーチの形も理想的に整いました。

下の奥歯が内側に傾斜歯ていたのも、まっすぐになりました。

上下の歯に垂直方向の力が伝わるようになり、力強い咬合力も受け止めやすくなります。

垂れ下がっているように見えていた上の前歯も、奥歯との高さと同等となりました。

保定装置(リテーナー)の着用

矯正治療後は、保定装置(リテーナー)を着用します。

リテーナーはご自身で外せる装置です。

今回のように、咬合力が極めて強いであろうと思われる場合は、内側からしっかりと歯を支える必要があります。

写真では写っていませんが、歯が内側に倒れてこないように、内側には樹脂のプレートが組み込まれています。

下の前歯がほとんど見えない過蓋咬合の矯正治療 まとめ

以上、下の前歯がほとんど見えない過蓋咬合の記録でした。

過蓋咬合とは、深い咬み合わせのことです。

下の奥歯が内側に倒れているせいで、上の歯が全体的に下の歯を覆い過ぎてしまうのです。

過蓋咬合は咬合力の強い方が多く、顎の関節や咬筋の痛みなども併発しやすいのが特徴です。

過蓋咬合は、歯の寿命まで縮めてしまうことがありますので、要注意の咬み合わせです。

下の前歯がほとんど見えない過蓋咬合の矯正治療の経過の様子は、YouTubeでもご覧いただけます。

過蓋咬合の改善されていく様子がよくわかりますよ↓

case0060

PAGE TOP
タイトルとURLをコピーしました