八重歯と開咬状態の受け口(反対咬合)の矯正治療

下顎前突

【受け口(反対咬合)】には、大きく分けて二つのパターンがあります。

咬み合わせの深いタイプと、浅いタイプです。

本症例は、咬み合わせの浅いタイプで、前歯で噛むことのできない【開咬(かいこう)】状態の反対咬合です。

【開咬】は【オープンバイト】とも呼ばれています。

八重歯と開咬状態の受け口(反対咬合)の矯正治療

正面のようす

前歯から第二小臼歯(前から数えて5番目の歯)まで、上下の歯は当たらない状態でした。

前歯2本は、先端が欠けています。

犬歯はやや外側に飛び出て(頬側転位 きょうそくてんい)、いわゆる八重歯の状態です。

上の歯のようす

歯列弓(歯の並んでいるアーチ)の形は、概ね良好です。

右上(ご本人の右側 写真では向かって左側)の第二乳臼歯(前から数えて5番目の乳歯)が、まだ残っています。

虫歯で黒くなっているので、よくわかりますね。

下の歯のようす

下の歯は、上の歯と比較して、かなり内側に倒れています。

右下の第二小臼歯は、本来の歯の形を成していない不良な補綴物(ほてつぶつ 歯の詰め物や被せ物のこと)が入っています。

横から見たようす

上の歯より下の歯の方が前の方にある反対咬合の状態です。

前歯から第二小臼歯にかけて、全く接触していません。

いくら噛もうとしても噛めない【開咬】という不正咬合の一種です。

特に、左側の上下の犬歯間には大きな開きがあります。

八重歯と開咬状態の受け口(反対咬合)の矯正治療の経過

それでは、八重歯と開咬状態の受け口(反対咬合)の矯正治療の経過について見ていきましょう。

レベリングのステージ

上の歯にブラケットを装着しました。

ブラケットは、歯を動かすために歯に直接接着する矯正装置です。

実際に歯を動かしてくれるのはワイヤーです。

【レベリング】とは、歯を水平的に一直線に並べていくことです。

レベリングの段階では、反対咬合の改善まではされず、ひとまず歯をキレイに並べましょうというステージです。

ワイヤーは歯に装着されると波打って見えますが、外すと真っ直ぐ一直線になっています。

ワイヤーの真っ直ぐに戻ろうとする力で、歯は直線的に並んでいきます。

今回、矯正治療に伴って、上下の親知らず(一番奥の歯 第三大臼歯)は抜歯する予定です。

しかし、まだ抜歯が完了していません。

手前の歯に矯正装置が装着されていると、親知らずの抜歯がやりにくくなります。

そのため、まだ第二小臼歯までしかブラケットとワイヤーは装着されていません。

下の歯にもブラケットを装着しました。

上の歯と同様に、奥歯にはまだブラケットは装着していません。

ワイヤーを通してみると、歯の並び方がよりよく見えてきます。

特に上の犬歯は、周りの歯より随分上の方に位置していることが見て取れます。

クワッドヘリックス(Quad Helix)の装着

親知らずの抜歯が完了しました。

これで奥歯までブラケットを装着することができます。

上の歯の裏側には、クワッドヘリックス(Quad Helix)を装着しました。

クワッドヘリックス(Quad Helix)は、主に歯列弓の拡大をするために使用されます。

今回は、歯列弓がそれほど狭くはなかったので、歯列弓の形を整えることと、下の歯を動かすための固定源として使用しています。

今回の反対咬合の改善に際して、上の歯の位置に下の歯を近づけていく必要がありました。

下の歯を上の歯に近づけていくとき、下の歯は上の歯の方に引き寄せられるように動いて欲しいのです。

矯正治療の難しい点に、歯(上下の歯列も含めて)を引っ張り合うと、両方の歯が近づいてきてしまうことが挙げられます。

そのため、上の歯には下の歯を引っ張ってきたときに負けないような固定の元(固定源)が必要になります。

上の歯の裏側に装着されたクワッドヘリックス(Quad Helix)は、固定源としても役目を果たすことになります。

ブラケットを奥歯まで装着したことにより、ワイヤーは全ての歯に通すことができました。

ワイヤーは、歯の動きに合わせて、適宜硬さや太さなどを変えて装着します。

反対咬合の改善のステージ

全ての歯を動かすようになり、歯の並び自体は良くなってきました。

犬歯の周りの歯との高さを見ると、確実に並んできているのがわかります。

しかし、反対咬合の治療では、上下の歯の位置を変えていくことが重要な目的の一つです。

そこで、下の歯を積極的に動かすための複雑なワイヤー(マルチループワイヤー)を装着しました。

マルチループワイヤーは、倒れている奥歯を一斉に起こし上げることができます。

下の歯が全体的に内側に傾斜し、なおかつ前倒しになっているのを改善します。

また、そのような動きは、噛む面(咬合平面 こうごうへいめん)が均一でないことも改善します。

咬合平面が、前歯より奥歯の方が尻上がりに上がってしまっている状態は、奥歯だけしか当たらずに前歯で噛めない【開咬】の状態を引き起こします。

反対咬合の改善と同時に開咬の改善を行うことも可能です。

しかし、マルチループワイヤーの力だけでは上の歯は下の歯に近づいてはくれません。

顎間ゴムを使用して、積極的に上下の歯の位置を近づけていきます。

こちらは、マルチループワイヤーと顎間ゴムの効果が現れ始めた状態です。

上下の歯が近づいてきています。

このような動きをさせたい場合、上の歯は下の歯の方に近づいてきて欲しくはありません。

クワッドヘリックス(Quad Helix)の固定源としての効果が発揮される場面です。

さらに上下の歯は近づいてきました。

理想的な咬み合わせは、全ての上の歯が下の歯を覆います。

だんだん上の歯に下の歯が近づいてきたのはとても良いのですが、左上の犬歯は反対咬合の状態で近づいてしまっています。

このように一部分だけ被蓋(ひがい 上下の歯の覆い方のこと)を改善したい場合に、バーティカルループを使用します。

上の犬歯を下の歯に被せるように動かしていきたいため、上の犬歯の角度を少しだけ外向きに調整しています。

バーティカルループは犬歯とその周囲の歯にだけ適用され、全ての歯に通されているワイヤーと併用して装着します。

被蓋確立のステージ

上下の歯は噛める位置にまで近づいてきました。

ここで、さらに上の歯が下の歯を確実に覆ってくるように調整を進めます。

バーティカルループを左右の第二小臼歯から第二小臼歯にまたがるよう装着して、前方の歯10本分の被蓋を改善します。

この段階では、まだ左上の犬歯の被害は改善されていませんでしたので、左上の犬歯はさらに外側への傾斜がつくように、強めにワイヤーを調整しています。

反対咬合の状態が改善されてきていますが、奥歯の上下の咬み合わせがまだできていません。

顎間ゴムを使い、上下の奥歯に咬合が得られるよう、下の歯を後ろに引くように引っ張り合います。

欠けていた歯の修正

前歯は、上の歯が下の歯を覆うような理想的な咬み合わせに近づいてきました。

被害の改善傾向が見られたので、バーティカルループは一旦外しています。

ここで、欠けていた前歯の形を修正しています。

歯の形を修正するには、さまざまな方法があります。

今回は、歯を削ることなく、レジン(虫歯の治療などに使う歯科用の樹脂)を用いて、歯の形を回復しています。

顎の偏位の修正のステージ

全ての上の歯が下の歯を覆うようになりました。

上下の奥歯にも咬み合わせができています。

ここから、最終的に咬合を確立させるために、上下の歯列弓のズレを改善します。

下の歯が全体的に左の方になびいているのを、顎間ゴムにより改善していきます。

このように顎の偏位を改善する場合の顎間ゴムは、左右で違う位置に使われます。

八重歯と開咬状態の受け口(反対咬合)の矯正治療が完了

上下の歯に装着されていた矯正装置を全て外しました。

歯の並びは直線的になり、八重歯の状態も改善されました。

上下の歯列弓は相似形となりました。

上の歯と下の歯がぴったり合うためには、上の歯列弓が下の歯列弓よりわずかに大きくなります。

上下の歯列弓は同じ形になり、サイズが少しだけ違うと、上の歯が下の歯を理想的に覆ってくれます。

右下の形態不良の補綴物は、今後修正しなければなりません。

横から見た状態です。

上下の奥歯は噛み合うようになりました。

歯の山と谷が合うように排列され、噛みやすくなっています。

保定装置(リテーナー)の着用

矯正治療後は、保定装置(リテーナー)を着用して歯列をキレイな状態でキープします。

リテーナーは取り外しのできる装置ですが、矯正治療後一年くらいは終日使用となります。

八重歯と開咬状態の受け口(反対咬合)の矯正治療 まとめ

以上、八重歯と重度の反対咬合(受け口)の矯正治療の記録でした。

前歯や犬歯、第一小臼歯(前から数えて4番目)まで噛むことのできない状態の開咬(open bite)でした。

八重歯自体は、レベリングの段階でほぼ改善されます。

しかし、反対咬合や開咬といった不正咬合は、歯を並べるだけでは改善されません。

矯正治療は、見た目の改善だけでなく、機能的な改善が目標です。

八重歯と開咬状態の受け口(反対咬合)の歯列矯正の経過の様子は、YouTubeでもご覧いただけます。

八重歯が並び、反対咬合が正しく改善していく様子がよくわかりますよ↓

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