前歯と犬歯まで、前歯で噛もうとしてもどうしても噛むことのできない開咬(open bite)の記録です。
前歯から犬歯まで噛むことのできない開咬の矯正治療
正面のようす
前歯と犬歯まで、前歯で噛もうとしてもどうしても噛むことのできない開咬という咬み合わせです。
開咬はオープンバイト(open bite)とも呼ばれています。
開咬の状態では、奥歯ばかりに噛む力が掛かります。
奥歯は過度の負担によって、歯周病などにもなりやすくなってしまいます。
食べものを前歯で噛むこともできず、咀嚼能率(そしゃくのうりつ)も悪くなります。
開咬は、歯並び自体が悪くない場合も多いので、なかなか気づかれにくい不正咬合です。
前歯から犬歯まで噛むことのできない開咬の矯正治療の経過
それでは、開咬の歯列矯正について見ていきましょう。
ブラケットの装着
上下の歯にブラケットを装着しました。
まだ、奥歯にはブラケットをつけていません。
奥歯のブラケットをつけるのは親知らずを抜歯してから行います。
親知らずは、歯茎の中に埋もれた状態でした。
手前の歯を押してしまうように斜めに生えてこようとしていたので、矯正治療と同時に抜歯します。
親知らずが手前の歯を押す力は、奥歯を全体的に前に押し出してしまうほど強力な場合があります。
開咬は、主に前歯で噛めない状態のことを指していますが、親知らずが手前の歯を押している力が二次的に働いている場合も多く、親知らずの存在は見逃せません。
親知らずの抜歯が済みましたので、奥歯にもブラケットを装着しています。
表側につけるブラケットは、親知らずの抜歯の際に邪魔になってしまうことが多いので、矯正治療前に抜歯を済ませてしまうこともあります。
ワイヤーは歯の並び具合に応じて交換していきます。
順次、硬いタイプのワイヤーに変えていくことが多いです。
マルチループワイヤーの装着
開咬の場合、歯並び自体はそれほど乱れていないことが多いので、早い段階から咬み合わせの改善をしていくことが可能です。
上下共に、複雑な形のマルチループワイヤーを装着しました。
マルチループワイヤーは、奥歯が前に倒れているのを整直(せいちょく 歯をまっすぐに立てること)させるのに効果的に働きます。
顎間ゴムを必ず併用しますが、この顎間ゴムは単純に前歯同士を引っ張りあっているのではありません。
顎間ゴムがかかっている部分より奥の方に力が働いて、奥歯を効率的に整直させることができます。
マリガンの装着
理想的な咬み合わせの状態は、全ての上の歯が下の歯を覆います。
上の歯の並ぶアーチ(歯列弓 しれつきゅう)が下の歯に対して狭いと、下の歯列は上の歯列に、うまくはまってくれません。
上下の歯列弓のサイズの改善のため、上の歯には太いワイヤー(マリガン)を装着しました。
マリガンは、単独で使われることはなく、他のワイヤーと併用されます。
今回は、マルチループワイヤーの上に乗せるような形で使用しています。
マリガンの使用は、歯列を拡大する目的もありますが、前歯を内側に押す効果もあります。
マルチループとマリガンの併用で、開咬の状態は徐々に改善してきました。
上下の前歯の距離が縮まってきているのがよくわかります。
前歯同士を引っ張り合うだけではなく、奥歯の傾斜を改善することが開咬を治療する際の重要なポイントです。
下の奥歯は奥へ向かうほど前傾し、尻上がりに、せり上がって並んでいました。
奥歯の傾斜を真っ直ぐにするとともに、ワイヤーの力で圧下(あっか 歯茎側に沈み込ませること)させています。
それにより、奥歯の高さが低くなり、相対的に上下の前歯同士が近づいてきます。
奥歯が整直され、前歯同士が噛み合うところまで動いてきました。
顎間ゴムは必ず使用し、同じ方向に持続的に力が掛かり続けるようにします。
最終的なワイヤー
上の歯が下の歯を覆うようになりました。
前歯だけでばく、奥歯も全て上が下を覆っています。
マルチループワイヤーの使用は必要なくなり、咬み合わせを安定を確認できたら矯正治療は終わりになります。
前歯から犬歯まで噛むことのできない開咬の矯正治療が完了
全てのブラケットを外しました。
前歯での咬合が得られるようになり、食べ物も噛み切れるようになりました。
奥歯も、上の歯と下の歯がぴったり合うようになったので、咀嚼能率は格段に上がっています。
保定装置(リテーナー)の着用
上下共に、矯正治療後は保定装置(リテーナー)を着用します。
矯正治療後の状態をキープするための装置です。
この装置自体に歯を動かす機能はありません。
リテーナーはご自身で着脱可能な装置です。
開咬の方は、前歯で噛むということを身体が忘れてしまっていることもあります。
例えば、開咬が治ったとしても前歯で噛み切ることをせず、食べ物をそのまま口の奥の方へ放り込んでしまうなど。
開咬の矯正治療後は、積極的に「前歯も使って噛む」という機能的な訓練をすべきです。
前歯から犬歯まで噛むことのできない開咬の矯正治療 まとめ
以上、前歯と犬歯まで、前歯で噛もうとしてもどうしても噛むことのできない状態の開咬(open baite)の記録でした。
生えてこられない親知らずのみ抜歯し、その他の歯は1本も抜かずに治療をしています。
全ての治療後は、開咬だった頃の面影もなく、前歯も噛めるようになりました。
開咬は、奥歯への負担といった口腔内の問題にとどまらず、噛みにくいことによる消化不良など、身体に負担をかけてしまう原因になりかねません。
開咬は気づきにくいです咬み合わせですが、要注意な不正咬合です。
前歯から犬歯まで噛むことのできない状態の開咬の矯正治療の経過の様子は、YouTubeでもご覧いただけます。
開咬が改善していく様子がよくわかりますよ↓
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